分散SNSの将来の火種

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前節では、分散SNSの運営または利用をめぐって発生した対立およびトラブルの事例を説明した。この節では、将来的に発生しうるトラブルと、その対処法を検討する。

営利企業2社による寡占

日本語圏のマストドンのインスタンスのうち、規模が大きいものを3個挙げると、JP (mstdn.jp)、ニコフレ (friends.nico)、Pawoo (pawoo.net) が挙げられる。本稿執筆時点のローカルタイムラインの流速 [1] は、それぞれ1430、1019、975トゥート/時である。4位以下はim@stodon (imastodon.net)、ますとどんちほー (mstdn.kemono-friends.info)、神埼丼 (knzk.me) がそれぞれ524、489、408トゥート/時であり、上位3インスタンスとそれほど大きな差はない。とはいえ、ドワンゴ社がニコフレを運営しており、なおかつJPの運営者であるぬるかる氏はドワンゴ社に雇用されているので、上位2インスタンスはドワンゴ社の影響下にある。

営利企業による寡占に対する懸念として、立命館大学対ピクシブ騒動 [3] を取り上げる。これは、立命館大学の学生ら [2] がピクシブに掲載されていたBL小説を研究対象として学会発表を行ったところ、それらの小説の作者らが反発したという事件である。これに対して、ピクシブ社は「論文の発表元である立命館大学に対し、経緯と事実関係の確認および対象ユーザーとの問題解決を要請しております。」などとする声明を発表。人工知能学会は論文を非公開とする措置を取った。

本件はピクシブで発生した騒動であるが、Pawooの運営者もピクシブ社であるため、もしPawooで何らかの騒動が発生したときには、同様の経緯をたどることが考えられる。例えば、Pawooで何か問題が起こったとき、連合の理念よりも、Pawoo のユーザーの感情を優先するかもしれない。零細インスタンスを糾合して、寡占企業に対抗し得るだけの発言力を確保すべきである。

メールアドレスの収集

マストドンのユーザー登録にメールアドレスが必要であることへの批判がしばしば聞かれる。例えば、きょうもえ [4] は「マストドン、適当な海外サーバーに登録したら1日持たずにサーバーが消滅してメールアドレスとパスワードだけ持って行かれたのですぐ廃れると思う」と書いている。

GNU socialもメールアドレスを収集しているが、メールアドレスの到達性を確認していないので、example@example.comのような架空のメールアドレスでも登録が可能である。これに対して、マストドンはメールアドレスの到達性を確認するので、メールアドレスの収集を回避することができない。

メールアドレスは重要なプライバシー情報なので、できるだけ収集すべきでない。GNU socialはメールアドレスの到達性を確認していないのだから、メールアドレスを収集しなくても分散SNSを運営できることは実証済みである。メールアドレスを登録すると、パスワードを忘れたときパスワードをリセットできるなどの利点があるが、それはオプトインにすべきである。

なお、パスワードの収集については、パスワードを使い回すユーザーが悪いとして割り切るべきだ。パスワードを収集せずにログイン可能なウェブアプリケーションを作ることは不可能である。他のウェブアプリケーションにOAuthで認証してもらうという方法はあるが、インスタンスの独立性を損なうという欠点があり、これに依存すべきではない。

パスワードを入力せず、OAuthでログインできるインスタンスが複数ある。具体的にはnow.kibousoft.co.jpと3.nuが、この機能を実現している。しかし、これらのインスタンスは、OAuth のAccess user email addresses権限を利用してメールアドレスを収集している。OAuthの導入によって、メールアドレスの収集はかえって深刻になっている。

メールアドレスのプライバシーを犠牲にせずにマストドンを利用する方法として、捨てメアド発行サービス [5, 6] が考えられる。しかし、もし捨てメアド発行サービスの運営者が邪悪であれば、マストドンのアカウントを乗っ取ることができる。捨てメアドを使われるくらいなら、最初からメールアドレスを収集しないほうが良いだろう。

最後に。マストドンがメールアドレスを収集する仕様であるために、日本の企業がインスタンスの設立を躊躇している [7] ことが知られている。ある種のプライバシーポリシーを採用している企業は、メールアドレスを暗号化して保存することが必要である。例えば、julika.jpはマストドンのインスタンスを開設するとき、メールアドレスを暗号化する改修を行った。しかし、これによりインスタンスの開設が遅れるという弊害があった。

マストドンがメールアドレスを収集しないようにするイシュー [8] が作られたことがあるが、このイシューはGargronによってクローズされてしまった。マストドンのメインストリームでは、メールアドレスのプライバシー問題が解決される望みはすでに絶たれていると考えてよいだろう。マストドンはオープンソースなので、メールアドレスを収集しないマストドンの開発は、ソースコードのフォーク [9, 10] に望みを託すことになる。

地域丼壊滅予想

「少しぐらいのノイズは許容しようという意見もあるだろうが、純度の高いコミュニティにおけるローカルタイムラインの快適さは想像以上なのだ」という意見 [11] がある。しかし、私たちはローカルタイムラインの快適さを維持することができるだろうか?

私の予想では、地域丼もしくは趣味丼がローカルタイムラインをきれいに保つためには、鯖管の強権と強い同調圧力が必要で、将来的には鯖管とそのお友達しか残らないだろう。インスタンスはリモートフォローのための土台に徹するべきだ。ローカルタイムラインは未知のユーザーを探しに行く場所と割り切って、ノイズを許容すべきであり、ローカルタイムラインを清潔に保つ努力を続けるべきではない。

「地域丼壊滅予想」という言い方は正確ではないかもしれない。ローカルタイムラインの魅力でユーザーを集めているインスタンスは死ぬだろう、というのが私の主張である。

予想を修正すべき証拠も見つかってきた。前例を見るに、全盛期のmixiは10,000人規模のコミュニティが多数あった [12, 13] らしい。ノイズのあるローカルタイムラインを望む意見もある。「歩行者天国。大道芸人やパフォーマーを見ているだけでも楽しいし、自分も何かやれば見てもらえる。」とは、Pawooのプロダクトマネージャーである清水智雄氏 [14] の言葉である。

では、均質な集団に埋没して暮らすことは不健全だろうか?「好みの話題にそってインスタンスを立ち上げられるということは、気に入らないものを排除することも可能」である [15]。ローカルタイムラインは独裁や偏向を実現しやすいとはいえ、連合あるいはインターネットそのものでさえ、それらから自由ではない。そして、ローカルタイムラインを脱してリモートフォローに乗り出したとしても、結局は「クラスタ」から出て行けない。post-truth時代において、人類はエコーチェンバーの中で暮らすしかないのかもしれない。静的ウェブサイトとGoogle検索が最強、というアナクロな信条に生きるのも悪くないだろう。

異常者の襲撃

プログラマーから見ると、ローカルタイムラインは単一障害点が丸出しになってるように見えてとても怖い。ユーザーが自主的に観察対象を選んでユーザータイムラインを作る方がロバストに思える。ローカルタイムラインは異常者の襲来に耐えられるだろうか? リモートフォロー指向の使い方であれば、そもそもフォローしない、ブロックするなどの対応が可能である。

私が観測した範囲では、インターネット異常者には以下のような類型がある。

セルフ車掌 攻撃性なし。協調性のない言動でコミュニティを汚損する。

童貞 男女の距離感が分からず、女性(と思われるユーザー)に一方的にコンタクトを取ってしまう。被害者の苦痛はセクハラ・ストーカーに匹敵するが、加害者は悪意も攻撃性もないという難しさがある。

論客 敵対する陣営に対する挑発、嘲笑、陰口を繰り返す。スルーしていると一方的に勝利宣言して去っていく。

法フィリア 些細な違法行為を執拗に言い立てる。スルーしていれば実害はないが、10,000 RT くらいされると警察の目に留まる危険がある。

暴走族 集団戦法でインターネットを汚染する。恒心教、ツイッターレディースなど。

教祖 致命的に誤った知識を流布し、あまつさえ初心者の支持を得てしまう。関数型言語騒動など。

最強 恫喝訴訟など、インターネットの外でも徹底して敵対陣営を攻撃する。

少なくとも、私がすぐに思いつくような異常者に対しては、対策を考えておく必要があるだろう。

修正地域丼壊滅予想

コミュニティが異常者の襲来に対して脆弱であることを考えると、やはり、ローカルタイムラインで訴求するインスタンスの将来は暗いと考えざるを得ない。現時点でのユーザーがローカルタイムラインの魅力によって訴求されているならば、ローカルタイムラインの浄化を徹底するしかない。異常者、スパムは強権を発動して排除するしかないだろう。新規ユーザーの存在でさえ、コミュニティの雰囲気に変化をもたらし、結果としてコミュニティの自壊をもたらす [16] ことがある。もっとあり得そうなシナリオは、ノイズを受け入れることでインスタンスの個性が薄まり、ゆるやかに過疎化していくことである。

そのような悲観的なシナリオは、どのようにすれば避けられるだろうか? まず考えられるのは、鯖管自身がコンテンツになり、おもしろトゥートを投下し続けることだ。マストドンのインスタンスではないが、私が「不買運動ウェブ」というウェブサイトを運営していたときは、運営者が精力的に不買運動を登録し続けることで、それが呼び水となり、一般のユーザーも不買運動を登録するようになった [17] という経験がある。その後、私が不買運動の登録を怠るようになると、不買運動ウェブは衰退してしまった。運営者自身が精力的に活動し、コンテンツとなることが重要である。

他にも、特殊なテーマを設定したインスタンスは、コミュニティの魅力を長く保ち続けることができるだろう。特に、攻撃性の高いユーザーが寄り付かなそうなテーマだとなお良い。この方向性で有望なインスタンスには、メンヘラ(mental.social)、ユリトピア(mastodon.yuritopia.net)などが挙げられる。

性の発生

性はあらゆる厄介事の種である。人類のあらゆる罪が具現するインターネットにおいて、マストドンのみがエデンの園であることは期待できそうにない。

最初のセクシストは、皮肉なことに、マストドンのアンチとして現れた。その記事 [18] のタイトルは「「おじさんウケするサービスは流行らない」インスタグラムのプロが断言」と、いきなり性と年齢で人間を公然と差別している。3 Lines Summaryでは「日本一ウェブサービスに詳しい女子大生」と公然と性を武器にしており、政治的に正しくなさは目を見張るようである。本文も「これから流行りそうというか、もう流行っていますけど「SHOWROOM」みたいなライブ動画の配信には注目しています」「美女がただ食事しているのを垂れ流しているだけだったりするんですけど」「インフルエンサーの中でも、すごく見た目のよい、「動画映え」する人が生き残ってくるんだろうなと思っています」というように、性と美貌を売り物にすることに余念がない。

インターネットのコミュニティで性が発生したとき、どのように対処するべきだろうか?「女性をLinuxに招くためのHOWTO」という、Linuxカーネル開発者コミュニティの文書 [19] が助けになるだろう。fuckはわざわざ言い直さないほうがよいが、bitchは絶対に言ってはいけないなど、意外な知見が得られる。

私たち全員がフェミニストになる必要はないが、フェミニズムで理論武装することはインスタンス運営者にとって必須のスキルになるだろう。先進国のフェミニズムを直輸入すると非実在児童ポルノが丸ごと人権侵害になってしまうが、何も参照しないよりは良い。

提言

これまで、マストドンと分散SNS界隈に発生した過去のビーフと、将来的にトラブルになりそうな課題を検討した。これらをまとめて、以下のように提言したい。

  1. 零細インスタンスを糾合して寡占企業に対抗する発言力を確保すべき。

  2. マストドンと GNU social はメールアドレスを収集するのをやめろ。

  3. ローカルタイムラインは未知のユーザーを探しに行く場所と割り切って、ノイズを許容すべき。ローカルタイムラインを清潔に保つ努力を続けるべきではない。

  4. 性はいつか必ず発生するから腹をくくっておけ。

参考文献

[1] 分散SNSフォーラム, 流速順マストドンインスタンス一覧, http://distsn.org/instance-speed.html

[2] 近江龍一, 西原陽子, 山西良典, ドメインにより意味が変化する単語に着目した猥褻な表現のフィルタリング, https://kaigi.org/jsai/webprogram/2017/paper-15.html

[3] 松谷創一郎, 立命館大学の研究者による「pixiv 論文」の論点とは, https://news.yahoo.co.jp/byline/soichiromatsutani/20170527-00071377/

[4] きょうもえ, マストドンに飛びついて「これはすばらしい!」みたいなこと言ってるやつは目立ちたいだけのアホ, http://kyoumoe.hatenablog.com/entry/20170416/1492322363

[5] 10分メール, https://10minutemail.net/

[6] spamgourmet, https://www.spamgourmet.com

[7] 松尾公也, Exciteの女性向けインスタンス「julika」(ユーリカ)始まる 10代からママまでカバーする「キラキラ女子」マストドンを作った理由, http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1706/27/news079.html

[8] Wikinaut, [Feature request] Account creation without e-mail address (like on jabber instances) #3484, https://github.com/tootsuite/mastodon/issues/3484

[9] 分散SNSフォーラム, メールアドレス不要でユーザー登録 & ゲストアカウントで匿名トゥート, https://md.distsn.org (リンク切れ)

[10] 分散SNSフォーラム, https://github.com/distsn/mastodon/tree/distsn-v1.6.1

[11] 松尾公也, Mastodonコミュニティを維持するために大切なこと, http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1704/23/news031.html

[12] はげログ.as, mixiコミュニティ管理で注意すべき10の事項, http://okamot.com/mt/archives/2008/12/mixi10.html

[13] norio nakayama,【mixi】大型コミュニティ管理人をそろそろ助けて欲しい件, http://airoplane.net/2011/03/09/mixi-community-12.html

[14] 井上輝一,「Pawooは創作活動の街」世界最大級となったマストドンを立てたピクシブの思い, http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1704/26/news108.html

[15] 小林啓倫, コグレマサト, いしたにまさき, まつもとあつし, 堀正岳,「マストドン 次世代ソーシャルメディアのすべて」

[16] ニコニコ大百科, コミュニティの一生, http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%83%86%E3%82%A3%E3%81%AE%E4%B8%80%E7%94%9F

[17] 墓場人夜, ウェブアプリケーションはどのように馴れ合いに陥り、どのように衰退するか, https://hakabahitoyo.wordpress.com/2016/12/12/website-decline/

[18] 速水健朗, カイユリコ, 「おじさんウケするサービスは流行らない」インスタグラムのプロが断言, https://www.houdoukyoku.jp/posts/11027

[19] Val Henson, 山口つかさ (訳), 女性をLinuxに招くためのHOWTO, http://linuxjf.osdn.jp/JFdocs/Encourage-Women-Linux-HOWTO.txt

[20] 墓場人夜, 分散SNSの政治とビーフ, https://hakaba-hitoyo.github.io/distsn/beef-2