分散SNSの政治とビーフ
この節では、分散SNSの運営または利用をめぐって発生した対立およびトラブルの事例を取り上げる。
ここで、節のタイトルである政治とビーフについて説明する。ビーフとは、ヒップホップの用語で、対立あるいは騒動のことである。すると、政治とは、ビーフを煽ったり収めたりする技法であると解釈できる。分散SNSの連合にも、ビーフもあれば政治もある。場合によっては性もあるかもしれない。
FreezePeach日本人街のビーフ
まず、FreezePeach日本人街のビーフについて説明する。2017年1月、墓場人夜とLGBTPZN [1, 2, 3] 支持者たちがFreezePeachに住み着いた。すると、ローカルタイムラインが日本語で埋め尽くされ、英語圏のユーザーから「俺たちが読めない言語でローカルタイムラインを占拠するのはやめろ」という趣旨の苦情が出た。とはいえ、しばらくすると、時差により住み分けが生まれ、対立は自然消滅した。後のマストドンブームでも、mastodon.cloudで同様の衝突があったようである。
We have 1 simple rule
LGBTPZN支持者たちがFreezePeachに住み着いたとき、FreezePeachに児童ポルノを流す者が現れた。児童ポルノとは言っても、女児の水着姿など、日本では(おそらく他の国でも)合法なものである。FreezePeachの運営者はその状況を憂慮し、We have 1 simple rule. No explicit images of involving minors (under 18) というメッセージが画面上部に掲示されるようになった [4]。
GNUsocial Axis
GNUsocial Axis [5, 6] とは、GNU socialの文化圏とマストドンの文化圏の衝突を象徴するキーワードである。GNU socialインスタンスのなかでも、言論の自由、反ポリコレ、不謹慎という文化を持つインスタンス群が存在する。代表的なものはShitposter Club(shitposter.club)であるが、FreezePeachもその一員である。ここで、マストドンの「フラッグシップ」インスタンスであるmastodon.socialが、これらの悪質なGNU socialインスタンス群をブロックしたことが問題となった [4] 。マストドンの開発者であるオイゲン・ロチコ(Gargronというハンドルネームでも知られる)は、自由と反中央集権を標榜しながらも、悪質GNU social界隈ほどの度胸はなかったと言える。
日本とのかかわりで言えば、mstdn.jpが既存のブロックリストに追従してshitposter.clubをブロックした [7] とき、他のユーザーの指摘でこれを撤回したという一幕もあった。このような状況に対して、悪質GNU social界隈はGNUsocial Axisを自称し、檄文を公表。自称アノニマス [8] も声明を発表した。
Pawoo鎖国騒動
2017年4月に日本でマストドンがブームになると、まず問題になったのはPawoo鎖国騒動 [9] である。Pawooが開設されると、絵師たちがPawooに多数の非実在児童ポルノを流した。これがリモートフォローと連合タイムラインを通して海外のインスタンスに流入すると、海外のインスタンスのなかには、非実在児童ポルノの画像をキャッシュすることが違法になるという懸念を示す者がいた。そのため、海外の多数のインスタンスがPowooとの接続を遮断することになった。
その後、特定のインスタンスから流入した画像をキャッシュしないようにする機能 [10] が実装されると、海外のインスタンスはPawooとの接続を再開するようになった。とはいえ、非実在児童ポルノが許容されたことを容認せずインスタンスを閉鎖した差別主義者も存在する。
ムトー広告騒動
ムトー広告騒動も、ブーム直後のマストドンの騒動の一例として知られている。ムトー★無料マストドンがトゥート内広告を実装した [11] ところ、広告トゥートがリモートフォローや連合タイムラインを通して連合に流出することとなった。これにより、マストドンのデフォルトの説明文である「広告もトラッキングもありません」が事実に反するようになるなどの問題が生じた。トゥート内広告はもともと実験的な機能として実装されたため、批判を受けてすぐに廃止された。
ソーシャルゲームインスタンスと卓ゲ箪笥でのビーフ
ソーシャルゲームインスタンスと卓ゲ箪笥でのビーフは、ビーフの内容そのものよりも、インスタンスの運営者がブログに克明な記録 [12, 13] を残していることが興味深い。私がここでビーフの内容を紹介することは避け、かわりに参考文献リストに一次情報を示すこととしたい。
参考文献
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